介護する彼

高齢になり、心と身体に重い障害を持つようになり、たくさんの不具合を感じるようになっても、ごく普通の生活が保障されるべきであるという、ノーマライゼーションを理念にかかげ、利用者の人権を守り、民主的な運営で全国でも有名な特別養護老人ホームを訪ねました。

空間の広さ、その明るさ-建物そのもののつくりも、利用する人も、働いている人もー温かいにぎやかさと笑顔がたくさんあふれていました。

車椅子の女性のそばで、ひざを折り、その右手を自分の両手で包み込んで、それをゆっくりと上下に揺らしながら、女性にうなずき、返事をしている職員の青年。

私は背後からその様子をしばし眺めました。

私の父の晩年に、そして最期の時に、私はなぜあのようにやさしく手を握らなかったのか・・・、なぜ彼のようによく聴き、やさしく言葉をかけなかったのだろうか・・と考えながら。

女性に何か頼まれたのか、青年は立ち上がり、私のほうに向きました。

ごく一瞬、訪問者である私が背後から見つめていたことに、少し驚いた様子でしたが、その表情は不安をみじんも感じさせるものではなく、笑顔で、私の正面に立って、まっすぐ私の目をみつめ、頭を下げ、挨拶をしてくれました。

彼と二言、三言、言葉を交わしながら、自分の心が「安堵と喜びでいっぱいになる」というのはこういう気持ちなのだと思いました。

彼は、昨日5月1日、役所に婚姻の届出をし、私の娘の配偶者となった青年。

ここで、職員のみなさんや利用者のみなさんとともに働いているおかげで、彼は社会人として成長していくのでしょう。

施設の理事長や施設長、職員のみなさんへ感謝、そしてその道筋をつくられた彼の両親にも感謝をしながら、彼と共に歩み始めた娘が待つ車に乗り、帰宅しました。


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